家族信託は、自分の財産管理の権限を家族に移しておくための制度です。家族に管理を依頼するため、投資信託のような報酬の発生がありません。
また認知症対策になることから注目されている相続対策です。すべての手続きを、個人で終わらせることもできます。ただ個人で行う場合は、相続トラブルに発展しないように注意も必要です。
そこで今回は、家族信託を契約するまでの流れや開始のタイミング、注意点を解説していきます。
家族信託を契約するまでの流れ
家族信託手続きの流れを順番に確認していきましょう。
本当に家族信託でいいのかを決める
家族信託を締結して良いのか家族会議を行い、目的を確認して全員の同意を得ましょう。全員が同意するのは難しいかもしれませんが、家族会議を怠ると、後のトラブルを引き起こす可能性が大きくなります。
関係者に連絡をせず勝手に話を進めないようにしてください。
また、家族信託の内容も合わせて決めておきます。どの財産管理を誰に委託するのか、家族会議で決めておきましょう。わからないことがあれば、司法書士に相談をして納得をしながら進めていくのがベストです。
家族信託契約書の作成
家族会議で決めた内容から、家族信託契約書を作成します。
必要な事項は以下です。
- 趣旨
- 目的
- 委託者の氏名
- 受託者の氏名
- 受益者の氏名
- 信託財産の詳細
家族信託契約書の作成が難しいと感じる人は、司法書士に依頼することをおすすめします。手違いがあると、次の公正証書に進めません。
公正証書にする
作成した家族信託契約書を公正証書にします。絶対に公正証書にする必要はありません。さらに言えば、契約書がなくても家族信託の契約は完了します。
ただ、トラブルを避けるためにも、契約書を作成し公正証書にしておくべきです。一般的に必要になる書類は次のとおりです。事前に準備をしておきましょう。
- 本人確認資料(公的機関が発行したもの)
- 印鑑証明書と実印
- 信託財産の詳細資料(不動産登記簿、固定資産税課税明細書、権利証など)
- 戸籍謄抄本
信託財産によっては、別途必要な書類が発生するかもしれません。準備ができたら最寄りの公証役場で公証人と相談をします。手続きが面倒な人は、司法書士への依頼を検討してください。
信託財産の名義変更
信託財産に不動産がある場合は、契約締結後に名義を変更します。不動産を管轄している法務局で登記申請が必要です。信託登記の形で名義が受託者に変わると、売却など法的な管理も可能となりますが、委託者の権利が侵害されるものではありません。
受託者の銀行口座を開設
家族信託の受託者は、財産を得たわけではありません。あくまで管理権のみの移動です。受託者が信託財産から得たお金は、別管理をする義務があり、受益者に送金しなければいけません。送金が開始されれば、一通りの流れは終了します。
家族信託を開始するタイミング
家族信託を開始するベストなタイミングは、本人が元気なときです。詳しく解説をしていきます。
認知症と診断されたら家族信託は利用できない
認知症と診断されると家族信託は利用できません。家族信託だけでなく、ほとんどの相続対策はできなくなります。
また、多くの人がとられる相続対策は、認知症を除外した方法です。遺言書を作成しても、認知症になれば効力は発揮されません。自分の死を意識しても、認知症を意識しない人が多くいます。
元気なときは考えたくない
元気なときに、相続のことは考えたくありません。さらに言えば、死よりも認知症になることを認めたくない人も多くいます。「自分は認知症にならない」と、強い思いを抱く人もすくなくありません。
「家族信託=認知症対策」です。子から親へ家族信託の話をすることに、いらだちを抱く人もいます。遺言書の作成を依頼されるよりも嫌悪感を抱くかもしれません。
認知症は「恥ずかしい病気」と誤った認識をしている人が多いことが原因です。まず、この考え方を排除しなければいけません。
65歳以上の認知症高齢者数と有病率の将来推計についてみると、平成24(2012)年は認知症高齢者数が462万人と、65歳以上の高齢者の約7人に1人(有病率15.0%)であったが、37(2025)年には約5人に1人になるとの推計もある
引用元:内閣府高齢者の健康福祉
将来的には、65歳以上の5人に1人が発症をする病気です。恥ずかしい病気ではなく、誰にも発症する可能性があることを理解してもらいましょう。元気なときは考えたくないことですが、元気なときでしか考えられないことです。
開始のタイミングは判断能力があるうち
家族信託の契約を結ぶのは、本人の判断能力があるうちがベストです。判断能力があるうちに契約を行い、受託者が適正に管理を遂行しているか見届ける必要があります。本人の「理解」「意思表示」「手続き」ができなくなれば手遅れです。
遅くとも体調に不安を感じた時は、家族信託の契約を結びましょう。見届けることができないかもしれませんが、残された人の安心につながります。
家族信託を契約する前に必要な確認時効
家族信託のタイミングがきたら、次の内容を確認しておきましょう。
信託財産の選出
何を信託財産にするのか、家族と確認をしておきましょう。不動産のみか、預金も信託するのかを決めます。信託財産の選出は自由です。委託者と受託者が同意すれば問題ありません。なにを財産信託にするかを事前に確認しておきましょう。
誰を受託者にするか
誰を受託者にするかを家族会議で確認しておきましょう。受託者には「善管注意義務」「忠実義務」「分別管理義務」が課されます。
よって、未成年者や成年被後見人や被保佐人は受託者にはなれません。本人にとって、確実に任せられる人を選ぶことが望ましいです。該当者が複数いる場合は、家族会議で話し合いを十分に行いましょう。
家族信託の目的
なぜいま家族信託が必要なのか、目的を再確認しておきましょう。後々のわだかまりを起こさないためにも目的の再確認は必要です。
認知症対策を目的にすることがほとんどですが、納得していない人がいるかもしれません。全員が家族信託の必要性を確認しておきましょう。
もし納得ができない人がいる場合は、司法書士に相談をしてください。
手続き上の注意点
では、家族信託の注意点を確認しておきましょう。
2カ月程度の時間を要する
家族信託を開始するまでには、2カ月程度の時間を要します。しかしあくまでスムーズに事が進んだ場合です。契約書の作成、公正証書、登記変更など、素人には難しいことが多く行き詰る可能性もあります。行き詰まれば、手続きはどんどん遅れることでしょう。
家族信託の契約を急いでいる人は、司法書士に相談をするべきです。
公正証書にするのを怠らない
家族信託の契約書は必ず公正証書にしておきましょう。怠ると争族が発生した際に、証明できなくなる恐れがあります。公正証書にするのは面倒です。しかし、のちのトラブル防止を考え、公正証書に必ずしておきましょう。
家族信託の注意すべきルール
家族信託には、承継先を指定する「受益者連続型信託」があります。代々継承された不動産を、子や孫に残したい場合に有効です。ただし、有効期間には30年ルールがあります。信託の開始から30年後に受益権を取得した人が死亡することで信託は終了します。
分からないことは、専門家である司法書士に相談をしましょう。家族信託は、個人で完結できる手続きですが、間違いが起きる可能性もあります。手続きも非常に面倒です。できれば司法書士に依頼をして、確実に進めることをおすすめします。
家族信託の必要性を感じたら司法書士へすぐ相談する
家族信託が本当に今必要なのか、家族会議で揉めた時は専門家の意見を取り入れましょう。もしかすると、他にベストな相続対策があるかもしれません。
家族同士で会議をしたとき、全員がすんなりと納得すれば問題ありませんが、異議を唱える人もいます。
納得するには、法的根拠が効果的です。家族信託の必要性を感じた時は、予め司法書士に相談しておくことをおすすめします。
東京・駒込で家族信託のご相談をしたい方は、吉田研三司法書士事務所へお気軽にお問い合わせください。