家族信託で遺留分対策は可能?問題点を解説

遺留分とは、相続人が最低限の遺産を確保するための制度です。しかし「遺留分すら渡したくない家族がいる」と考える人もいます。そこで提案されていたのが信託です。信託を利用すれば大丈夫といった話をされる人もいました。
しかし、その考え方は平成30年9月の判決で覆ります。遺留分対策で家族信託の利用を考えている人は見直しをしましょう。
家族信託と遺留分について解説をしていきます。

遺留分制度を潜脱した意図があると判断された家族信託

平成30年9月12日、家族信託を一部無効とする判決がありました。
解説をしていきます。

後継ぎ遺贈型受益者連続信託

今回、利用されていた家族信託は、後継ぎ遺贈型受益者連続信託です。
後継ぎ遺贈型受益者連続信託とは、家族信託契約の内容により受益者を順次指定することで、受益権が承継されていく方法です。承継に回数制限はなく、二次受益者が亡くなった後に関しては、遺留分問題が発生しないと言われていました。
さらに一次相続時にあっても、受益権が消滅し異なる受益権を次の受益者が取得をする考えから、遺留分は生じないと考える人もいます。

家族信託の内容

父は余命わずかの末期がんでした。法定相続人は長男、次男、長女の3人です。
最初に父と次男と長女は、次男3分の2、長女3分の1となる死因贈与契約を締結しました。
次に家族信託を締結します。内容は次男を受託者とし、父は受託者兼受益者です。信託する財産は、全不動産と金銭300万円、家族信託の目的は次男の直系による、円滑な財産承継でした。そのため二次受益者に長男(6分の1)、次男(6分の4)、長女(6分の1)、三次受益者には、次男の子へ均等に取得できる契約内容です。
先ほどの見解から、遺留分問題を考慮した家族信託の内容とも言えます。

争点

長男は遺留分の侵害を受けたと主張し、訴えを起こします。
争点は、
・父は末期がんで意識がもうろうとしていたことから、家族信託は無効
・たとえ意思能力が有ったあとしても、長男の遺留分を侵害する目的の家族信託である
と訴えました。

裁判所の判断

意識に関しては、意思能力を欠いた状況ではないと判断されましたが、一部の不動産に対し、遺留分制度を潜脱する意図で家族信託を利用したと判断されました。公序良俗に反することから信託は一部無効です。ただし、死因贈与は有効の判断でした。
信託ならば遺留分対策になるといった考え方が、一部通用しない場合もあると受取れる内容です。

家族信託と遺留分の問題

今回の裁判から、家族信託と遺留分の問題点を解説します。

家族信託は比較的新しい制度

家族信託は、比較的新しい制度です。今回の家族信託の内容を確認すると、素人では思いつかない内容ではないでしょうか。父が末期がんで時間もないことから察すると、プロに依頼をしたと推測ができます。受益権で6分の1を長男に分配するなど、個人で思いつくものではありません。にもかかわらず、家族信託の一部無効と判断されました。
判例が少ないため判断が難しいと言わざるを得ない結果です。対策を講じても、故人が望む結果が得られない可能性があります。

遺留分を侵害した家族信託契約書の作成は可能

遺留分を侵害した家族信託契約書の作成は可能です。遺留分を侵害した遺言書も、問題ありません。相続人が請求をしなければ相続は滞りなく進みます。口約束で「私は遺留分を請求しない」と約束していても、相続発生後はわかりません。
遺留分を侵害した契約や遺言が認められても、相続発生後にどうなるか分からないのが問題です。
ただし、遺留分を侵害した家族信託契約書を見せても、銀行によっては家族信託専用の分別口座を開設してくれない可能性があります。他の財産があると証明できれば問題ありませんが、その点は注意をしておきましょう。

家族信託のみでは遺留分の問題解決は難しい

家族信託のみでの遺留分対策は難しいと判断するべきです。遺留分については、死亡保険金などの受取人を、受益者にすることで対策を講じておくのが無難ではないでしょうか。
遺留分を請求されたときは、死亡保険金で対応します。これにより目的である土地の承継は守られることでしょう。

家族信託と遺留分で悩んでいる人は弁護士に相談

家族信託の利用が最適かの判断は、個人では難しいです。「法定相続人の中に相続させたくない人がいる」などで家族信託を考えている人は、弁護士に相談をしましょう。
最善な方法は、判例により明日には変わるかもしれません。その情報を多く持っているのは、家族信託に強い弁護士です。相談をしてから対策を講じることをおすすめします。